PROJECT STORYプロジェクトストーリー

段違い平行棒

逆上がり練習器

子供達が運動を嫌いにならないように
セノーだからできること

運動嫌いな子供を増やしたくない。
ある大学教員の思いに共感したセノーは、これまでにない逆上がり練習器を製品として生み出すために動きだす。多くのスタッフの強い思いが重なり合う。セノーがやらなくてはならない仕事がある。

インタビュー

セノーの新しい挑戦

富山大学の佐伯准教授の研究室を訪れた時、セノーの中川は静かに驚いた。そこには独自の理論に基づいたオリジナルの体育補助器具が所狭しと並んでいた。教師を目指す学生のために考案されたそれらの器具は、運動理論に基づいて設計されており、実際に使ってみると体の動かし方を直感的に理解することができるものだった。

その中で実際に小学校の教員向けの体育講習で、現役の教師の方が試しているところを目にしたのが、逆上がり練習器との出会いだった。教える側の教師がうまく教えられないことの一つが逆上がりだという。「これはセノーが製品化すべきものではないだろうか」すでに佐伯准教授によって特許が申請されていたこの補助器具をセノーで製品化するために中川は社内の調整に走った。

「セノーだからできることがある」セノーとの共同開発という形で製品化プロジェクトがスタートした。競技用の体育器具や施設向けのトレーニングマシンが主力製品であるセノーにとって、初の個人向けの製品開発である。

セノーの新しい挑戦

佐伯型「逆上がり練習器」の特長、製品化に向けての課題

従来、逆上がり練習器といえば駆け上がり式のものが主流だった。逆上がりは円運動なので回転力が必要なのだ。佐伯型「逆上がり練習器」ではこの「体の回転力」を重視し、鉄棒から体ができるだけ密着できるように考えられていた。鉄棒に器具が付いているので必ず回転力が得られる構造になっている。体の動かし方が感覚的に理解できるこの補助器具は非常に理にかなった器具なのだ。

実際に製品化を目指すとなれば様々な体格の方が使えなければならない。小学生から大人まで使うことを想定し、製品としての安全性、メンテナンス性を考慮すると、様々な改良が必要となった。試作品ができるたびに佐伯准教授に来社いただき、セノーの開発陣と活発な意見交換が行われた。

佐伯型「逆上がり練習器」の特長、製品化に向けての課題

たかが逆上がり、ではない

この佐伯型「逆上がり練習器」はもともとは教員を目指す学生のために開発されたものだ。しかし、実際に逆上がりの練習をするのは小学生の子供たちである。体育の授業で必ず行われる逆上がり。練習したけどできなかった、という事実が子供たちが運動嫌いになるきっかけになるかもしれない。苦手意識をもってしまうかもしれない。

しかし、努力してできるようになれば満足感と達成感を味わうことができる。子供達の笑顔を一つ増やすことができる。逆上がり練習器はまさにその象徴なのだ。たかが逆上がり、されど逆上がり、なのだ。

中川は「セノーだからできること」をあらためて感じている。

セノーの逆上がり練習器は2016年夏に、いよいよ発売の日を迎える。

たかが逆上がり、ではない

新しい取り組みへのきっかけとして

そこでは大人たちが真剣に鉄棒やマット運動の指導を受けていた。千葉県習志野市の小学校教員向けに開催された体育科公開研究会に視察に来たマーケティング部の矢吹は、言葉で説明することと指示されたとおりに体を動かすことの難しさを目の当たりにしていた。

お手製の逆上がり練習器を使って、富山大学の佐伯准教授が逆上がりの指導法を講習しているところを記録撮影した。体に回転力を覚えさせるその器具は、矢吹から見ても目から鱗だった。この記録映像が開発部門と営業部門で共有され、程なくして逆上がり練習器の製品化プロジェクトが発足した。

新しい取り組みへのきっかけとして

マーケティングが関わる製品開発

逆上がり練習器は当初は大人向けのサイズのみで開発が進んでいた。実際の市場や用途を考えれば子供用のサイズは必須であった。矢吹は夏休みの時期を利用して試作の段階で少し運動が苦手な小学生に体験してもらう機会を設けた。目的はサイズ感の確認であったが、実際にこの器具を使う子どもたちがどのような反応するかも知りたかった。

初めは補助器具をつけても逆上がりができなかった消極的な子供たちが、しばらく練習することでコツをつかんでいく。「これはどこで買えるのか」「借りていくことはできないのか」と、子供たちが名残惜しそうに訴える姿に手応えを感じる。自発的に「もっと練習したい」と真剣になっていく姿に矢吹は心を打たれた。

「この製品は小さな夢を叶えることができる」矢吹はこの逆上がり練習器の魅力に引き込まれていった。それはセノーが世に出さなければならない製品であるという決意でもあった。

マーケティングに携わる者だからわかることがある。 例えばデザイン。一般販売も考慮して親しみやすいカラーリングを開発陣と意見交換し、誰でも簡単に使えるようにサイズを調整する部材についても注文をつけた。

マーケティングが関わる製品開発

発売に向けてのプロモーション準備

この器具ほど「使ってもらわなければわからない」ものはない。まずは親会社であるミズノと連携して、スポーツ教室に導入してもらえるように取り組むことから始めていくつもりだ。メディアに取り上げてもらえるように、製品リリースの原稿にも力が入る。大人も使える点に着目すれば、「お父さん逆上がり教室」などのイベントも行える。親子で逆上がりを練習するそんな場もつくっていきたい。

ほんの少しコツをつかむことができれば逆上がりは習得できる。その「ほんの少しのコツ」を掴みやすくするのがこの逆上がり練習器である。矢吹は自らが開発にも関わったこの製品を少しでも多くの方に使っていただけるようにプロモーションを企画している。開発から受け取ったバトンをマーケティングがつなぐのだ。

発売に向けてのプロモーション準備

先生の夢、社内の思い、セノーのプライド

従来の逆上がり練習器とはコンセプトや動きが全く違う。マーケティング部の矢吹が持ち帰った動画を見て、開発部の馬場が直感的に感じたのは難しさだった。

製品化には課題が多いな、そう考えた馬場の気持ちを動かしたのは設計者である佐伯准教授と、営業部の中川の熱い思いだった。「逆上がりができるようになることで、子供たちへ運動の成功体験を感じさせてあげたい」スポーツを通じて人の思いを実現する、それこそがセノーのあるべき姿だ。馬場の中にあるセノー開発者としてのプライドに火がついた。しかし、製品化を実現するためには解決しなければならない課題が山積されていた。

先生の夢、社内の思い、セノーのプライド

使いやすさへの挑戦

試作機を作ってみて想定外だったのは、設置する鉄棒によっては、本来の動きを再現できない場合があったことだ。鉄棒の種類にかかわらず同じ動きを再現するために、様々な体型の人間の体の動きを研究し、いくつもの角度を検証した。試作機が完成するたびに佐伯先生にアドバイスをいただき、その要望にも真摯に耳を傾けた。

機能的な部分に注力していた開発陣が、動きや機能だけではなく、構造そのものにメスを入れるきっかけがあった。それはマーケティング部が実施した小学生の体験会で初めて目にした子供たちが使う姿だった。子供特有の体の動かし方やサイズ感の違いに抜本的な見直しが必要であることを知った馬場は構造の再考に挑むことになる。

そこにあったのは、安全性と直感的な使いやすさと安全性をどこまで実現するかという課題だった。これはメーカーとして製品化を進めるために絶対条件である。さらに生産工程や物流にも配慮する必要があり、一般発売を狙うセノーにとって低コストでの実現は命題でもあった。

強度や安全性への配慮を施した構造上での解決方法は、製品をできるだけシンプルにすることだった。馬場は製品を鉄棒に取付けを行う際、ユーザーが簡単に作業を行う事ができ、さらに頻繁に着脱を行っても負担にならないよう、工具を使わず取付け・取外しが行える機構を採用した。こうした工夫が大きな使いやすさを生み出し、製品化に向けた具体的な動きがより現実的なものへと変化していった。

使いやすさへの挑戦

逆上がり練習器から生まれるもの

この製品の開発を通じて痛感したのは「できない人の気持ち」だった。逆上がりができないことは人生において重要なことではない。しかし、小学生のある時期に一所懸命練習して、逆上がりができるようになる経験は大きな達成感になる。それは今の自分たちでは決して感じることのできない大切な気持ちなのだ。逆上がり練習器は小さなコンプレックを大きな自信に変えることができる。小学校の体育の授業でこの逆上がり練習器が活用される日を楽しみにしている。

セノーの逆上がり練習器には多くの人間の思いが込められている。佐伯准教授、営業部門、マーケティング部門、それぞれが自分の顧客であると考えたとき、その要望に応え続けるのが開発の使命なのだ。

逆上がり練習器から生まれるもの