PROJECT STORYプロジェクトストーリー

段違い平行棒

段違い平行棒

新たな国際認定を満たす
段違い平行棒を
セノー品質として開発するために

数多くの国際認定を取得しているセノー。
得意分野の体操器具の一つである 「段違い平行棒」の国際認定ルールが2017年に変更される。これまでの実績を活かしつつ、新基準に即した新製品の開発には 体操を愛する元選手と、開発に意欲を燃やす技術者の姿があった。

インタビュー

選手の立場になって考える

セノーの社員には学生時代にスポーツ競技の選手として活躍した者が多い。営業部の松村もその一人であり、学生時代は体操の選手として床競技を得意としていた。女子の体操競技で使う「段違い平行棒」の新基準に対応する製品開発プロジェクトに、松村が抜擢されたのはまさにその経験が買われたからだ。「このプロジェクトで自分に求められているのは選手の立場から見た意見だ」。松村はセノーの営業である前に、一人の体操選手としてこのプロジェクトに臨んだ。

選手の立場になって考える

変わるものと変わらないもの

スポーツの歴史において、選手の体格の変化や技術の向上によって、その競技のレベルはどんどん上がっていく。体操器具の進化は選手の競技力向上と日進月歩であり、時として選手の体格や技術が器具の性能を上回ることがある。国際体操連盟が定める段違い平行棒の設置基準がまさにそれだった。体操競技においては、器具のポテンシャルが演技に直接影響するため、厳密な基準が設けられている。

これまで、段違い平行棒は選手の身長に合わせて高さの調節が行われていた。高さを調整するために一度器具を分解する必要があり、厳密な調整を行うために時間も必要だった。今回の変更はこの分解工程を省き、比較的楽に高さを調整することができるように仕様変更するものなのだ。

変わるものと変わらないもの

セノーという品質を買っていただく

松村はこのプロジェクトにおいて、開発陣に対していかに競技者の気持ちや不安を伝えるべきかに悩んでいた。競技器具の場合、練習と本番の器具の違いは技の完成度に大きく影響する。鉄棒や段違い平行棒には独特の「しなり」が必要であり、その微妙なバランスの違いがどれだけコンディションに影響するかが最も重要なポイントなのだ。

競技用器具である以上、開発者が実際に使用する機会はない。どうしても機能性や利便性が重視されてしまう。松村は今回の基準変更が選手に不利にならないように徹底的に使用者の視線で意見を述べ続けた。実際に使う選手としての意見はもちろん、指導者の意見を伺うために体操競技のチームに足を運び、そこで得た具体的な要望をプロジェクトで伝え続けた。耐久性試験においても、現実に自分が体験した使い方を伝えることで、開発陣の考え方に変化を加えることができた。

セノーの製品はもともと完成度が高いという自負があった。形状や仕様を変えることなく、構造を変えることはセノーの開発陣ならできるはずだという強い信頼もあった。数々の厳しい評価テストを繰り返したセノーの新しい段違い平行棒は間もなく世界選手権でお披露目される。新基準が本格的に施行される2017年以降、今度は営業社員として松村の仕事が大きく動き出す。

セノーという品質を買っていただく

開発というステージへの挑戦

「国際体操連盟の認定ルールが変更されることになり、セノーも段違い平行棒の仕様を大きく変更する必要がある。その開発を一緒にやってみないか」

設計部門で器具の取付などの図面をメインで書いていた濁川に転機が訪れたのは上司からの誘いだった。新製品の開発は目標の一つでもあった。思いがけず飛び込んできたチャンスに迷いはなかった。

このプロジェクトへの参加をきっかけに濁川は企画開発部へ異動となり、本格的に開発という業務に取り組むことになる。プロジェクトチームは開発だけではなく、営業部門をはじめ他部署との合同チームとして発足した。

求められる条件は、段違い平行棒を固定するワイヤーを張った状態で、バーの高さを変更できるようにすること。つまり機構の見直しと開発が焦点となる。段違い平行棒そのものは複雑な構造ではない。セノーの段違い平行棒が他社製品との違いを出すためにはどんなものが必要なのか、プロジェクトメンバーとの議論が濁川には新鮮だった。

開発というステージへの挑戦

開発者として求められたもの

設計時代は機能性や効率性を重視して図面を書いてきた。しかし、新製品の開発は競技者の使い勝手や取り扱い方までを考慮する必要がある。体操競技自体に詳しいわけではない濁川は、競技経験のあるメンバーの意見や要望に大いに刺激を受けた。高さを変える機構を作るだけではダメなのだ。普段からその器具を使う方のメンテナンス性や操作性の方が重要であることを知った濁川は、具体的な機構を落とし込んで試作機の開発に取り組んでいった。

試作機のレビューでも濁川は新製品開発の難しさを痛感した。例えばワイヤーの張り方。設計時に想定していた力のかけ方や角度が、現場で使われる場合と大きく異なったのだ。また設計視点で使いやすいと判断して採用した機構が、「わかりにくくて使いづらい」という評価を受けた。濁川が解決しなければならない課題は、開発そのものよりも、その器具を使う方がいかに安全で使いやすいかという部分なのだ。その一点を強く意識して改善に取り組んでいった。

開発というステージへの挑戦

視野を広げて新製品を生み出す醍醐味

濁川が目指したのは「選手が違和感を覚えないもの」にすることだった。従来のセノーの段違い平行棒は極めて完成度が高く、選手からの信頼も厚かった。基準が変わったからといって器具の使用感が変わってはいけない。バーの振り幅、操作性など、これまで評価いただいている点を変えることなく、機構部分の変更によって新基準に則った仕様を実現すること。それが濁川の使命だ。

メーカーである以上、製品には安全性だけではなく効率的な生産性も求められる。セノーの段違い平行棒がこれまで以上の付加価値を持つためには、新基準でも使いやすい仕様であり、これまで以上に選手からも選ばれるものでなければならない。実際に試作機を選手の方々に使っていただき、そこで得た要望や意見をもとに考える。もっともっと改善を繰り返し「セノーだからできた新しい段違い平行棒」を完成させるために、濁川は今日も試験を続ける。

視野を広げて新製品を生み出す醍醐味